これまでの記事では、自館の特徴を整理し、その中から「強み」を見つけ、
さらに「誰に選ばれたいのか」というターゲットについて考えてきました。
ここまで整理できたら、次はいよいよ、その強みを実際にお客様が予約できる「商品」に変える段階です。
宿泊施設の商品といえば「宿泊プラン」です。
ところが、宿泊予約サイトを見ると、
「1泊2食付きプラン」
「スタンダードプラン」
「季節の会席プラン」
といった似たようなプランがたくさん並んでいます。
もちろん、これらが悪いわけではありません。
しかし、それだけではお客様から見て、
「なぜ、この宿のこのプランを選ぶのか」
という理由が弱くなってしまいます。
今回は、自館の強みを「選ぶ理由のある宿泊プラン」に変える方法を考えてみましょう。

宿泊プランは「料理+客室+料金」だけではない
宿泊プランを作るとき、
「夕食は何を付けよう」
「どの客室を使おう」
「料金はいくらにしよう」
というところから考えていないでしょうか。
もちろん、これらも必要です。
しかし、その前に考えてほしいことがあります。
それは、
「このプランで、お客様にどんな時間を過ごしてもらいたいのか」
ということです。
たとえば、
「地元食材を使った会席料理」
を提供するとします。
これを単に、
「地元食材を使った会席料理付きプラン」
として販売することもできます。
しかし、
「旅先では、その土地ならではの料理を楽しみたい50代以上の夫婦」
をターゲットにすると、商品の見え方が変わります。
「夫婦でゆっくり味わう、地元の旬を楽しむ大人の温泉旅」
という宿泊プランにすることができます。
同じ料理でも、
「誰に」
「どんな時間を過ごしてもらうのか」
を加えることで、単なる食事付き宿泊から旅行の目的そのものへ変わっていきます。

宿泊プランは3つの要素で考える
選ばれる宿泊プランを作るときは、次の3つを順番に考えてみましょう。
① 誰に来てもらいたいのか
まずターゲットです。
たとえば、
- 子育てが一段落した50~60代の夫婦
- 小学生くらいの子どもがいる家族
- 仲の良い女性2~3人の旅行
- 温泉を楽しみたいシニア夫婦
- 地元の料理を目的に旅行する人
などです。
「すべてのお客様」を対象にするのではなく、ひとつの宿泊プランにつき、
ひとつの代表的なお客様像を考えると分かりやすくなります。
② どんな時間を過ごしてもらいたいのか
次に考えるのが「体験」です。
お客様は、客室や料理そのものが欲しいわけではありません。
その宿に泊まることで得られる時間や思い出を求めています。
たとえば、
50代夫婦なら、
「日常を離れて、夫婦二人でゆっくり話をする時間」
子ども連れの家族なら、
「周囲を気にせず、家族みんなで楽しめる時間」
女性グループなら、
「おいしい料理を食べながら、気兼ねなくおしゃべりを楽しむ時間」
などが考えられます。
ここが明確になると、宿泊プランの内容も決めやすくなります。
③ その時間を実現するために何を提供するのか
最後に、自館の強みを使って具体的な商品を組み立てます。
たとえば、自館に、
「客室数が少なく静か」
「地元食材を使った料理」
「貸切風呂がある」
という強みがあったとします。
50代夫婦をターゲットに、「夫婦二人で静かに過ごす時間」
を提供したいのであれば、
・静かな客室
・地元食材の会席料理
・貸切風呂50分
・チェックアウト11時
などを組み合わせることができます。
すると、
「1泊2食+貸切風呂」
ではなく、
「夫婦二人で何もしない贅沢を楽しむ、大人の温泉休日プラン」
という商品になります。

「強み」を並べるのではなく、組み合わせる
宿には、小さな強みがいくつもあります。
たとえば、
「地元の魚」
「貸切風呂」
「静かな客室」
「スタッフの温かい接客」
「景色」
「小規模だからできる細かな対応」
などです。
一つひとつを見ると、それほど珍しくないかもしれません。
しかし、ターゲットに合わせて複数の強みを組み合わせることで、
その宿らしい商品になります。
たとえば、
「地元の魚」+「地酒」+「静かな食事処」
を組み合わせれば、
「地元の旬と地酒を夫婦でゆっくり味わう美食旅」
になります。
「貸切風呂」+「家族向け客室」+「子ども用料理」
なら、
「小さなお子様連れでも安心。家族で楽しむ温泉デビュープラン」
にできます。
大切なのは、
「何があるか」ではなく、「誰のために、どう組み合わせるか」
なのです。

同じ宿でもターゲットが変われば商品が変わる
一つの宿でも、ターゲットを変えることで複数の商品を作ることができます。
たとえば、貸切風呂という同じ設備でも、
・夫婦向けなら
「二人だけでゆっくり温泉を楽しむ」
・子ども連れなら
「周囲を気にせず家族で温泉に入れる」
・シニア向けなら
「落ち着いて自分たちのペースで入浴できる」
と、価値の伝え方が変わります。
ここが重要です。
宿の設備やサービスは同じでも、お客様によって「買う理由」は違うのです。

プラン名も「内容」ではなく「過ごし方」を伝える
宿泊プランが完成したら、プラン名も見直してみましょう。
たとえば、
「旬の会席料理プラン」
だけでは、料理の内容しか伝わりません。
これを、
「50代からの夫婦旅|旬の会席と温泉をゆっくり楽しむ大人の休日」
とすると、
「誰のためのプランなのか」
「何が楽しめるのか」
「どんな時間を過ごせるのか」
が見えてきます。
家族向けなら、
「ファミリープラン」
ではなく、
「家族で温泉デビュー|貸切風呂で楽しむ、子どもと一緒の思い出旅」
とすることもできます。
女性グループなら、
「仲良し女子旅|地元グルメと温泉を楽しむ、のんびりご褒美旅」
なども考えられます。
プラン名そのものを、「これは私のための旅行だ」と感じてもらう入口にするのです。

「特典を付ければ売れる」とは限らない
宿泊プランを魅力的にしようとすると、
「ワンドリンクサービス」
「お土産プレゼント」
「料金10%OFF」
など、特典を追加したくなります。
もちろん、特典が有効な場合もあります。
しかし、特典をたくさん付けることが「買う理由」になるとは限りません。
先ほどの夫婦旅行なら、
「チェックアウト11時」
という小さなサービスの方が、
「朝食後も慌てず、二人でゆっくり過ごしたい」
という希望に合っているかもしれません。
重要なのは特典の数ではなく、
「そのお客様が望んでいる時間を実現するために必要か」
という視点です。
既存プランも「買う理由」の視点で見直せる
新しい宿泊プランをゼロから作る必要はありません。
現在販売しているプランを一つ選んで、次の3つを確認してみてください。
・このプランは誰のための商品なのか?
・その人にどんな時間を過ごしてもらいたいのか?
・そのために自館のどんな強みを使っているのか?
もし答えが曖昧なら、料理や料金を変更する前に、
商品の見せ方を変えるだけでも改善できる可能性があります。
つまり、
「商品を変える」のではなく、
「商品の意味を明確にする」
ところから始めるのです。

今日からできる「宿泊プランづくり」
紙を1枚用意して、現在販売している宿泊プランを一つ選んでみましょう。
そして、次の順番で書き出します。
① 誰に?
[ ]
↓
② どんな時間を過ごしてほしい?
[ ]
↓
③ 自館のどの強みを使う?
[ ]
↓
④ 具体的に何を提供する?
[ ]
↓
⑤ このプランを選ぶ理由は?
[ ]
最後に、この5つを一つの文章にしてみます。
たとえば、
「子育てが一段落した50代夫婦に、日常を離れて二人でゆっくり過ごしてもらうため、
地元の旬を味わう会席料理と貸切風呂、ゆったりしたチェックアウトを組み合わせた宿泊プラン」
ここまで言葉にできれば、プラン名や写真、紹介文も考えやすくなります。

「泊まる場所」から「過ごしたい時間」へ
小規模なホテル・旅館が、大規模ホテルと設備の豪華さや価格だけで競争する必要はありません。
小さな宿だからこそ、
「静かに過ごせる」
「料理に手をかけられる」
「お客様一人ひとりに対応できる」
「地域らしい体験を提供できる」
といった強みがあります。
その強みを、
誰に
×
どんな時間を過ごしてもらうために
×
何を提供するか
という形に組み直してみてください。
すると、「1泊2食付き」という宿泊商品が、
「ここで、この時間を過ごしたい」
と思ってもらえる旅行商品へ変わります。
それこそが、自館の強みを「買う理由」に変えた宿泊プランなのです。
次回予告
次回、第6回はいよいよシリーズ最終回です。
「買う理由」をお客様に伝える方法をご紹介します。
ターゲットを決め、選ぶ理由のある宿泊プランを作っても、
その魅力がお客様に伝わらなければ予約にはつながりません。
ホームページやOTA、チラシ、SNSなどで、
「誰に」「何を」「どのような言葉と写真で伝えるのか」
を整理し、自館の「買う理由」を実際の予約につなげる方法を考えていきます。
