「誰に選ばれたいか」を決めるターゲットの考え方
これまでの記事では、自館の特徴を整理し、その中から
「お客様にとって価値のある強み」を見つける方法について考えてきました。
しかし、ここでもう一つ大切なことがあります。
それは、
「その強みを、誰に伝えるのか」
ということです。
たとえば、
「静かな環境にある宿」
という特徴があったとします。
小さな子どもを連れた家族にとっては、
必ずしも一番の魅力ではないかもしれません。
一方で、
「夫婦二人で、日常を離れてゆっくり過ごしたい」
という50代、60代のお客様にとっては、大きな魅力になる可能性があります。
宿の強みは、それだけで「買う理由」になるのではありません。
その強みを求めているお客様と出会ったとき、初めて
「この宿を選ぶ理由」になるのです。
その強みを求めているお客様と出会ったとき、初めて
「この宿を選ぶ理由」になるのです。

「すべてのお客様に来てほしい」では伝わりにくい
ターゲットの捉え方
宿泊施設に、
「どのようなお客様に来てもらいたいですか?」
と聞くと、
「できれば、いろいろなお客様に来てほしい」
という答えが返ってくることがあります。
もちろん、経営を考えれば当然です。
家族旅行も歓迎。
夫婦旅行も歓迎。
女性グループも歓迎。
シニア旅行も歓迎。
しかし、販促では少し考え方を変える必要があります。
誰にでも当てはまるようにしようとすると、
言葉がどうしても一般的になってしまうからです。
たとえば、
「旬の料理と温泉で、ゆっくりお過ごしください」
という言葉。
間違いではありませんが、多くの宿で使える表現でもあります。
ターゲットをもう少し具体的にする
これを、
「子育てが一段落したご夫婦へ。旬の料理と温泉を楽しみながら、
久しぶりに二人だけの時間を過ごしませんか」
とすると、どうでしょう。
「これは自分たちに合いそうだ」
と感じる人が、ぐっと具体的になります。
これがターゲットを決める意味です。
ターゲットとは「来てほしいお客様」の顔をはっきりさせること
「ターゲット」という言葉を難しく考える必要はありません。
簡単に言えば、
「自館の魅力を、最も喜んでくれそうなお客様は誰か」
を考えることです。
年齢や性別だけで決める必要もありません。
大切なのは、その人がどんな旅行をしたいのかです。
たとえば、
夫婦二人で静かに過ごしたい
子どもに楽しい思い出を作ってあげたい
温泉に入って、とにかくのんびりしたい
地元ならではの料理を楽しみたい
観光地を巡るより宿で過ごす時間を楽しみたい
記念日に少し贅沢な旅行をしたい
こうした「旅行の目的」まで考えると、自館との相性が見えてきます。

「宿の強み」と「お客様の希望」を結びつける
ここで、第3回までに整理してきた「自館の強み」を使います。
自館の強みー例1「客室数が少なく、静かに過ごせる
これだけでは、まだ宿側から見た特徴です。
では、誰にとって価値があるでしょうか。
たとえば、
「にぎやかな大型ホテルより、夫婦二人で静かに過ごしたい50代以上のお客様」
と考えることができます。
すると、
「客室数が少ない」
↓
「館内が比較的静か」
↓
「夫婦で落ち着いて過ごせる」
↓
「だから、この宿を選びたい」
という流れができます。
もう一つ考えてみましょう。
自館の強みー例2「地元の漁港から仕入れる魚料理」
ターゲットを、
「旅先では、その土地ならではの料理を楽しみたい人」
とすれば、
「地元漁港から仕入れる」
↓
「その土地ならではの魚を味わえる」
↓
「旅先でしか食べられない料理を楽しめる」
↓
「料理を目的に、この宿を選ぶ」
となります。
この最後の部分が「買う理由」です。

3つを一直線につなげてみる
自館の「買う理由」を考えるときは、次の3つをセットで整理してみてください。
① 誰に来てもらいたいのか
まず、お客様を具体的にします。
「50代以上の夫婦」
「小学生の子どもがいる家族」
「料理を楽しみたい女性グループ」
「温泉でゆっくりしたいシニア夫婦」
などです。
② その人は何を求めているのか
次に、そのお客様が旅行に何を期待しているのかを考えます。
「静かに過ごしたい」
「地元料理を楽しみたい」
「子どもとの思い出を作りたい」
「日常を忘れてのんびりしたい」
などです。
③ 自館のどの強みが応えられるのか
最後に、自館の強みと結びつけます。
たとえば、50代夫婦
→ 二人で静かに過ごしたい
→ 客室数が少なく落ち着いた館内
→ 「夫婦でゆっくり過ごせる宿」
料理目的のお客様
→ 地元ならではのものを食べたい
→ 地元漁港から仕入れる魚
→ 「この土地の旬を味わうために泊まりたい宿」
子育て世代
→ 周囲を気にせず家族旅行を楽しみたい
→ 家族向け客室・貸切風呂
→ 「小さな子どもと安心して過ごせる宿」
という具合です。

ターゲットを絞ると「お客様が減る」のか?
ここで心配になるのが、
「ターゲットを絞ったら、それ以外のお客様が来なくなるのでは?」
ということです。
ターゲットを決めることは、ほかのお客様を断ることではありません。
「誰に一番強く魅力を伝えるかを決める」ことです。
50代夫婦をメインターゲットにしたからといって、
40代のお客様を断る必要はありません。
家族旅行向けのプランを作ったからといって、
夫婦旅行を受け入れないわけでもありません。
広告や宿泊プランを作るときに、
「今回は誰に向けて伝えるのか」
を明確にする。
それだけでも、伝わり方は大きく変わります。

実際のお客様からターゲットを見つける
「誰をターゲットにすればいいのか分からない」
という宿は、まったく新しいお客様像を考える必要はありません。
まず、これまで宿泊してくれたお客様を思い出してみてください。
「毎年泊まりに来てくれる夫婦」
「料理をとても喜んでくれたお客様」
「口コミで高い評価を書いてくれた家族」
「知人に宿を紹介してくれたお客様」
こうした人たちは、自館との相性が良いお客様です。
つまり、
「自館をすでに選んでくれている理想のお客様」
の中に、これから狙うべきターゲットのヒントがあります。
口コミを読み返してみるのもおすすめです。
「料理がおいしかった」
「静かでゆっくりできた」
「スタッフの対応が温かかった」
「子どもにも親切だった」
こうした言葉は、お客様が自館のどこに価値を
感じているのかを教えてくれます。
今日からできる「ターゲット整理」
紙を1枚用意して、次の3つを書いてみてください。
誰に来てもらいたい?
↓
その人は何を求めている?
↓
自館のどの強みで応えられる?
たとえば、
「50代以上の夫婦」
↓
「二人で静かに温泉旅行を楽しみたい」
↓
「小規模だからこその静かな館内と、地元食材を使った会席料理」
ここまで整理できれば、
「誰に」「何を伝えるべきか」
がかなり明確になります。
そして、この組み合わせこそが、自館ならではの「買う理由」を
作る土台になります。

「強み」は誰に届けるかで価値が変わる
大浴場がない。
客室数が少ない。
繁華街から離れている。
設備が最新ではない。
一見すると弱みに思えることでも、ターゲットを変えると
強みになる場合があります。
「客室数が少ない」
→ 静かに過ごしたい夫婦には魅力。
「繁華街から離れている」
→ 喧騒を離れて休みたい人には魅力。
「大規模な設備がない」
→ 豪華さより、家庭的なもてなしを求める人には魅力。
だからこそ、
「自館には何があるか」だけではなく「それを喜んでくれるのは誰か」を
考えることが大切なのです。
すべてのお客様に選ばれる宿を目指すのではなく、
「この宿は、私たちにぴったりだ」
と思ってくれるお客様を増やしていく。
それが、小規模なホテル・旅館が価格だけで比較されず、
「買う理由」で選ばれるための大切な考え方です。
※私の体験をお話します。
「なぜここの宿を選んでいただいたのですか?」という私の質問に
「何もないのがいいから」と答えてくれた首都圏からのお客さまがいらっしゃいました。
長いこと販促に携わっていましたので、なんでもありすぎる都会の人には
「ないこと」が価値になるのでは?と思っていたのですが、
直接答えを聞いて「やはりそうか!」と確証を得た記憶があります。
次回予告
次回、第5回は、
「強み」を宿泊プランに変える方法
をご紹介します。
自館の強みとターゲットが明確になったら、次はそれを実際に
「売れる商品」にしていきます。
「誰に」
「どんな時間を過ごしてもらい」
「何を提供するのか」
を組み合わせながら、単なる「1泊2食付き」ではない、
選ぶ理由のある宿泊プランの作り方を具体的に考えていきます。

