「自分の宿の強み」を見つける棚卸し方法
「うちには、有名旅館のような立派な温泉もない」
「料理も特別珍しいものではない」
「絶景が見えるわけでもないし、建物も新しくない」
宿の魅力について考えたとき、このように感じる経営者の方は少なくありません。
しかし、本当に「強み」がないのでしょうか。
実は、宿の中にある魅力を「当たり前」と思っているために、
その価値に気づいていないケースがたくさんあります。
毎日やっていること。
昔から続けていること。
スタッフにとっては普通になっていること。
その中に、お客様が「この宿を選びたい」と思う「買う理由」のタネが
隠れているかもしれません。
今回は、自分の宿の強みを見つけるための「棚卸し方法」をご紹介します。
強みは「すごいもの」でなくてもいい

まず覚えておきたいのは、
強み=他の宿には絶対にないもの
ではない、ということです。
例えば、
・朝食に地元のお母さんが作った漬物を出している
・チェックイン時に周辺の飲食店を紹介している
・小さな宿なのでスタッフがお客様の顔を覚えやすい
・駅からは遠いが、その分とても静か
・地元の漁師から魚を直接仕入れている
宿側にとっては、どれも「いつものこと」かもしれません。
しかし、お客様から見れば、それが宿を選ぶ理由になる可能性があります。
大切なのは、最初から「これは強い」「これは弱い」と判断しないこと。
まずは自分たちの宿にあるものを、
できるだけたくさん書き出すことから始めましょう。

6つの視点から宿の魅力を棚卸しする
宿の強みを探すときは、漠然と「うちの良いところは何だろう?」と考えても、
なかなか思いつきません。
そこで、次の6つに分けて考えてみます。
① 施設・設備

まずは、建物や客室、館内設備などです。
例えば、
・客室数が少ない
・和室が中心
・貸切風呂がある
・露天風呂がある
・庭が見える
・全室禁煙
・駐車場が広い
・ロビーに暖炉がある
・古い木造建築を残している
ここで重要なのは、弱点に見えることも書き出すことです。
例えば「客室数が少ない」は、規模だけを考えれば弱点かもしれません。
しかし、「全10室だからこそ、一人ひとりのお客様に目が届く」
と考えれば、立派な強みになります。
② 料理

料理は、宿泊施設にとって「買う理由」を作りやすい分野です。
・地元の魚を使っている
・自家栽培の野菜を使っている
・料理長が毎朝市場へ仕入れに行く
・手作りにこだわっている
・朝食に地元料理を出している
・季節ごとに献立を変えている
・少量ずつ品数を多くしている
・子ども料理にも手を抜かない
単に「会席料理をご用意しています」ではなく、
「誰が、どこから、どのように仕入れ、どのような思いで料理しているのか」
まで掘り下げると、その宿ならではの魅力が見えてきます。
③ 接客・サービス

接客は形がないため、自分たちでは強みに気づきにくい分野です。
例えば、
「観光について聞かれたら詳しく説明している」
という宿があったとします。
スタッフにとっては普通の仕事かもしれません。
しかし、
「ガイドブックには載っていない地元の見どころをスタッフがご案内します」
と表現すれば、地域を楽しみたいお客様にとって大きな魅力になります。
ほかにも、
・お客様の名前をできるだけ覚える
・高齢のお客様には館内移動をサポートする
・記念日の相談に対応する
・食事の好みをできる範囲で記録している
・リピーターのお客様の情報をスタッフ間で共有する
など、普段行っているサービスを書き出してみましょう。
④ 立地・周辺環境

「立地が悪い」と思っている宿も、見方を変えてみましょう。
・駅から遠い。
・繁華街から離れている。
・周辺に店が少ない。
こうした条件も、
「街の喧騒から離れて静かに過ごせる」
という価値に変わることがあります。
反対に、
・駅から徒歩5分
・観光地まで歩いて行ける
・海が近い
・山に囲まれている
・星空がきれい
・朝の散歩が楽しめる
・コンビニが近い
といったことも、お客様によっては重要な「選ぶ理由」です。
立地そのものを変えることはできません。
だからこそ、その立地を誰が喜ぶのかを考えることが重要です。
⑤ 地域

宿そのものだけでなく、地域にも目を向けてみましょう。
小規模な宿ほど、地域の魅力と組み合わせることで
強みを作りやすくなります。
・地元の祭り
・旬の食材
・歴史ある街並み
・神社や寺
・ハイキングコース
・海水浴場
・紅葉や桜
・地元の酒蔵
・朝市
・地域ならではの体験
例えば、「近くに小さな酒蔵がある」
だけなら観光情報です。
しかし、
「地元の酒蔵を訪ねたあと、夕食ではその土地の料理と地酒を楽しめる宿」
となれば、宿泊そのものの魅力になります。
⑥ スタッフ・人

最後に、ぜひ棚卸ししてほしいのが「人」です。
設備や建物は競合施設も真似できます。
しかし、そこで働いている人は簡単には真似できません。
・山菜に詳しいスタッフがいる
・地元の歴史に詳しいスタッフがいる
・釣り好きのスタッフがいる
・日本酒に詳しい料理長がいる
・何十年も勤務している仲居さんがいる
・若女将がお客様の観光相談に乗っている
こうした「人の魅力」も立派な財産です。
「何があるか」だけではなく、「誰がいるか」も
宿の強みとして考えてみましょう。
「強みのタネ」を見つけたら、もう一段掘り下げる
棚卸しをすると、たくさんの特徴が出てきます。
そこで終わらせず、前回ご紹介した
特徴 → メリット → 買う理由
へと変換してみましょう。
例えば、
【特徴】
全10室の小さな宿
↓
【メリット】
大型旅館ほど館内が混雑せず、落ち着いて過ごせる
↓
【買う理由】
「にぎやかな大型旅館ではなく、静かな宿で夫婦二人の時間を
ゆっくり過ごしたい方へ。
全10室の小さな宿だからこそ、落ち着いた滞在を楽しんでいただけます」
もう一つ考えてみます。
【特徴】
地元の漁港から魚を仕入れている
↓
【メリット】
その土地ならではの新鮮な魚を味わえる
↓
【買う理由】
「せっかく海辺の町へ来たのだから、その土地の魚を味わいたい。
そんな方のために、地元漁港から仕入れた旬の魚を中心に
夕食をご用意しています」
同じ特徴でも、
「それによって、お客様にどんな良いことがあるのか」
まで考えることで、初めて「選ぶ理由」になっていきます。
お客様の声の中にも「強み」が隠れている

もう一つ、ぜひ確認してほしいものがあります。
それが口コミやアンケートです。
自分たちが強みだと思っていることと、お客様が評価していることは、
必ずしも同じではありません。
口コミに、
「スタッフの方が教えてくれたお店が良かった」
「朝食のお味噌汁がおいしかった」
「夜がとても静かでよく眠れた」
「子どもに優しく接してくれた」
といった言葉が何度も出てくるなら、それは重要なヒントです。
宿側が当たり前だと思っていることを、お客様が
わざわざ口コミに書いてくれている。
そこには、自分たちでは気づいていない強みが
隠れている可能性があります。
まずは「30個」書き出してみよう
今回の実践ワークです。
紙を1枚用意して、
施設・料理・接客・立地・地域・スタッフ
の6項目を書いてください。
そして、それぞれについて自分の宿の特徴を書き出します。
最初から「これは売りになるだろうか?」と考える必要はありません。
目標は合計30個です。
小さなことでも構いません。
30個並べてみると、
「これとこれは組み合わせられそうだ」
「これは口コミでもよく褒められている」
「この部分は近隣の宿とは少し違う」
というものが見えてきます。
それが、自館ならではの「買う理由」のタネです。

強みは「見つける」だけでは売上につながらない
自館の強みを見つけることは、とても重要です。
しかし、ここで一つ問題があります。
強みを見つけても、それをホームページに
「当館の自慢です」
と書くだけでは、まだ十分ではありません。
なぜなら、お客様によって「魅力に感じること」が違うからです。
温泉を最優先する人もいれば、料理を重視する人もいます。
夫婦で静かに過ごしたい人と、小さな子どもを連れた家族では、
宿に求めるものも違います。
つまり、
「自分たちの強み」と「それを喜んでくれるお客様」を
結びつける必要があります。
ここまでできると、「買う理由」はさらに強くなります。
次回予告
次回、第4回は、
「誰に選ばれたいか」を決めるターゲットの考え方
をご紹介します。
せっかく見つけた宿の強みも、すべてのお客様に
同じように響くわけではありません。
「誰に来てもらいたいのか」
「その人は宿に何を求めているのか」
「自館のどの強みなら、その期待に応えられるのか」
を整理し、「自館の強み」と「お客様が宿を選ぶ理由」を
結びつける方法を具体的に解説します。
Ryoukan

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
日々のおもてなし、本当にご苦労さまです。
あなたの宿が、たくさんの出会いと再会に満ちた「千客万来のお宿」になりますように。
どうぞご自愛のうえ、これからも素敵なお宿づくりを続けてください。
